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- Date:2025年05月22日
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更新完全停止(廃棄物) 見ていただきありがとうございました。
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昔からあの二人は仲が良い。
何をするにも一緒で時には俺も連れ出してくれた。
離れ離れになった時二人の表情が今でも忘れられない。
ベランダ越しの距離
夕食も終え静になったリビング。
洗い物をしようと立ち上がると部屋からティメが出て来て「当番だから」と機嫌悪そうに言い。
俺が持っていた食器を取り上げ、キッチンに入って行った。
こう言うところが可愛いなと兄馬鹿なことを思う。
カチャカチャと食器が当たる音を聞きながらやることがなくなった俺はベランダに出る。
流石に夜は風が冷たくなっていた。
「よぉ! タバコを吸わないのにベランダに出るんだ?」
隣のベランダとの距離は手摺り一つ分だけの隔たりで共にベランダにでれば容易に会話出来る。
「貴方だって、一人暮らしにも関わらずベランダに出てくれているだろ?」
ここに引っ越してきて不安で押し潰されそうになった自分を叱咤するためベランダに出た。
弟達と暮らせるようになったんだからいつ来るかわからない室内では弱音を吐けない。
そんな気持ちの時、ベランダでタバコを吹かしていた彼、チョミに出会った。
「俺は…ここの大屋さんが煩いからだ」
「確かに…でもいい人だ」
互いに言い合う言葉はあの時と寸分変わらず交わされる。
これが俺達の挨拶になっている。次にチョミが言う台詞も変わらないだろう。
「だな。で、今日はどうしたんだ?」
そうあの時も彼は俺を助けてくれた。
「話しぐらいは聞くぞ」そう切り出して…。
「え?」
戸惑う俺に視線を外しながらも言ってくれた。
「何か家族にも言えない…いや、家族だからこそ言えないことがあるだろ?」
彼は一瞬にして俺の心境を言い当てた。
驚きで声も発することが出来ない俺に笑いかけながら続ける。
「的確なアドバイスは出来ないが話ぐらいなら聞くぞ?」
赤の他人だからこそ言えることもある。
守秘義務は護る。
これでも口は固い。
「ありがとうございます」
「おっと、敬語も無しだ。歳はそうかわらんだろ?」
隣になった誼みだ。
この時、俺は久しぶりに泣いた気がする。
今思うと格好悪いことをしたと思うが…。
たまに聞くチョミの小言はそんなことどうでもよくなるほどぶっ飛んでいた。
チョミになら何でも話せる。
いつの間にかここでチョミと語り合うのが楽しみになった。
ここ以外では余程のことがないかぎり会うことはない。
それは互いに作った暗黙のルール。
赤の他人だからこそ語り合えると言う部分を尊重しあった。
だから俺はチョミが何処の誰で何をしているのか知らない。
わかるのはとんでもない上司がいて何時もこき使われて居ること、後輩は可愛いがたまに我を忘れて暴走するとか。
滅多に会わない兄は最近また父親に似てきて不気味だとかそんな感じだ。
向こうも詳しい背景は知らないと思う。
「弟達を花見に誘ったらフラれたよ」
いつの間にか恋を語る年代になったんだな。
それがとても不思議な気持ちになる。
俺も歳をとるわけだ。
「高校生の癖に生意気だな」
「まだまだ、可愛いところも沢山あるけどな?」
さっきの光景を思い出して笑う。
「学校、楽しいか?」
チョミも笑って尋ねてきた。
俺は23歳になってもまだ高校生活を楽しんでいる。
「ああ。十分過ぎるほどに…」
空白の5年。
俺はあの辛い5年間をそう呼んでいる。
本当は怪我が治ったら普通に働くつもりだった。
だけど、父の知り合いだった人が気さくなでちゃんと学べるときに学べと妹が経営しているこの学校の受験票を持ってきた。
「ここへ行きなさい」その息子と容赦なく勉強会を開らかされた。
そいつが世話好きだったから年下ながらいろいろ助けてくれた。
ただあの厳しかったスパルタは母を思い出す。
懐かしい思い出だ。
「本当、俺はいろんな人に世話になっている」
「人は少なからず誰かの世話になる」
感謝こそすれ、終始申し訳なく思う必要なはいぞ。
「とくに、世話好きな大屋さんにはな」
「だな」
軽いものいいに俺自身も笑いたくなった。
あの「出世払いでいいわよ~」と言っていた彼女を思い出した。
少しずつ少しずつでいい。
焦る必要はない。
「ところで…」
「ん?」
言いにくいことなんだろうか?
言い出して、途中で口を閉ざすチョミ。
静かに待つ。
「その…花見は中止か?」
「そりゃ、あの二人が行かないんだから、意味がないさ」
所詮、俺の気まぐれの提案だ。
残念には思うがそれだけだ。
「何時だ?」
「ん? 今度の土曜日」
しばらく、何かを考えているかのように真剣な表情をしたかと思うと俺の方を向いてこう言った。
「その日、仕事が調度休みなんだ」
だからそのと…。
消えゆく言葉に驚かされた。
そして、優しい気遣いに嬉しくなる。
「そうだね。それもいいかもしれない」
そういうと沈んでいた気持ちが晴れ渡ったかのようにぱぁっと広がった。
「そうだそうだ、ガキどもが出来ないことをしような」
「そうだな。お酒を持って行こう」
しばらく、二人っきりの花見の企画を楽しく語り合った。
カラカラカラっとベランダから戻ればスクが既に風呂から上がってたらしく出迎えてくれた。
「そこにいたんだ」
誰もいなかったからびっくりしたよ。
ティメはどうやらまた自室に引っ込んだようだ。
スク自身は自室に入るのが躊躇われるのかまだリビングで寛いでいた。
弟二人の関係は近い分複雑なのだろう。
助言や手助けはできてまもあくまで外からだ。
結局は本人同士がどう納得するかしかない。
だから兄としてできることは…。
「えっ、兄さん!?」
流石に頭を撫でたら驚かれた。
「俺に気にせず楽しんで来い」
そして、自分の道を見つければいい。
出来ることは…。
あいつらが自分の力ではどうすることもできない絶望に打ちひしがれないようにする。
という決意だけだ。
二度とあの顔を見ないために…。
「うん、ありがとう」
スクの少し照れたような笑みに俺は満足した。
『花見…俺とじゃダメか?』
チョミの言葉に何時も助けられている俺だから…。
俺も身近な兄弟ぐらいは幸福にしたい。
To be continued