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- Date:2025年05月21日
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更新完全停止(廃棄物) 見ていただきありがとうございました。
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5-1
「トロデ王が、いきなりスネちゃうんで、ビックリしたわ。普段は明るく振舞ってるけど、やっぱり、あんな姿になっちゃって、ストレスがたまってたのね」
ゼシカはベッドに腰を掛けて、ふうとため息をつく。
ヤンガスの提案で、ヤンガスの故郷へ向かう事となった一行。
しかし、出たのは昼過ぎだったので、幾場かも進まない間に辺りがすっかり暗くなってしまった。
野宿かと思われたが、ヤンガスがこの先に小屋があったはずだと、昔の記憶を掘り起こしてくれた。
暗くなってしまった今、野営の準備をするより、そのまま強行しようということになった。
そして、月は天高く登り切るころ、小屋までこられた。
夜はモンスターが活発となるので、移動は慎重になるので余計に神経を使った。
明るい、室内で温かく迎えてくれる。旅人の為の宿屋のようだ。
夕食は、最低限のものしかないため、温かいスープと言う感じだったが、ほっと一息つけた。
「今まで、トロデ王が本当に王様なのか疑っていたけど、さっきのを見て納得したぜ。いいトシして、あのワガママっぷり、あれは王族のものにまちがいねえよ」
ククールは座り心地の悪い椅子に腰かけて、肩を竦める。
そもそもの発端は、アスカンタ城から出たときに迎えたトロデの様子だ。
エイト達に背を向けており、完全にスネていた。
いろいろあれこれとエイトが声をかけても、完全に聞き入れず、めんどくさいことになったなっと、ククールが漏らすほどであった。
そこで、トロデ王がちゃんと酒場で酒が飲めるという場所があるとヤンガスが提案した。
「その何とかいう町に行くことで少しでもトロデ王の気分が晴れればいいんだけど……」
次の目的地は。ヤンガスの故郷パルミド。
トロデのご機嫌取りをするためというのもあるが、ヤンガスの話では腕利きの情報屋がいるらしい。
現在行方が全く分からなくなっている、ゼシカの兄、ククールの院長を殺した道化師ドルマゲスの動向を尋ねるというのもある。
「どうだかな、俺はこんな所より、娯楽があるところがいいぜ」
アスカンタ城のところでも結局、碌に遊ぶ暇がなかった。
次行く場所もきな臭い。
「あら、いいじゃない。下手に遊ばれてもこっちが困るわ」
「おや、ゼシカ嫉妬かい? では、今宵はゼシカの相手をしようか」
ゼシカの手を取り、手の甲にキスを送る。
「結構よ。そう言えば、エイトは遅いわね」
その手を振り払い、入り口の方を向く。夕食もそこそこにトロデ王と馬姫様の寝る準備をしていた。
「他の男の名を出すなよー」
「大切な仲間の話よ!」
本気にできない軽口をたたき合う。どうせ、何もできやしない。
ここは、一応宿として機能しているが閑静で、ベッドの間に申し訳ない程度の衝立しかない。
屋根があるだけありがたいと思うしかないようだ。
「あんちゃん、あんまり女子をからかうもんじゃねーぜ」
ゼシカに先に寝るわと見事に振られたあと、野郎からまた声が掛かった。
「珍しいまだ寝てなかったんだな。夜は苦手じゃなかったのか?」
野郎といえども、旅の仲間であるヤンガスだ、メンドクサイながらも、別れるまではちゃんとお付き合いしなくてはな。
「今日は朝に寝たから調子狂っちまってるだけでぇ。だから、こう、兄貴が持ってる酒をちょっとだけ分けてもらおうと思ってな」
失礼な奴だとククールを睨む。
「おおこわ。ところでよ。噂を聞くとあんまりよくねーぜ。悪徳の町はよー」
エイトやゼシカは気にしていないようだった。もともとこの大陸の人間ではないから噂をあまり聞いていないのだろう。
城のエリートやお嬢様にしたら、かなり過酷な場所ではないかと危惧する。
「あんちゃんにしたらそうだろうよ。だが、アッシとおっさんにとっては、良い町だ」
「……ってことは、噂には違いないってことだな」
ますます、眉を顰める。ククールに取ってと言うにはやはり、罪人が多く集まる見捨てられた町。あそこにはアスカンタの権力が届きにくいと聞く。
マイエラ修道院の腐敗すらまともに制御できないのだから、距離的にもさらに難しいのだろう。
「失礼な奴だ。だが、知っているのなら、出来るだろ? アッシは、兄貴を守る。ククールお前はあしらい方を知ってんだろ?」
町の中で守るという単語が出てくる時点で、そう言う意味じゃねーかと愚痴をこぼしたくなる。
「生憎、金持ちの相手の方が多かったぜ」
「嫌味な奴でげす!」
人睨みして、エイトがいるだろう出入り口へと向かう。
「ゼシカは何も知らないようだから、気を付けなきゃな…」
予想はつかないが、想像はできる。
ゼシカは女性であるというだけで危険な場所だろう。
ヤンガスはエイト以外のことは口に出していなかったが、ククールがゼシカを護るという前提なのだろうなと思う。
「戦力ね。甘い奴の考えだ」
いまだにむず痒いその言葉に首を振り、思考を振り払う。
「のう? エイトや」
遅い夕食を終え、姫の手入れをしていたエイトにトロデは声をかける。
「はっ」
「あるんじゃろう?」
エイトの周りをくるくると回り、トロデはニヤリと笑う。
「ですが、酒場で飲みたいのでは?」
「ええい、いいんじゃ! お前が高級な酒を持っていることは分かっておる!」
出し渋るように言うエイトに飛び跳ねて、今飲むことを進言する。
「…では、こちらを」
命令とあらばと、すぐさまカバンに仕舞っていたアスカンタ城で頂いたワインを渡す。
王家が嗜むものらしく、今までの瓶より豪華に装飾されている。
「うむ。ろくなグラスがないが、まぁ良いじゃろう!」
少し、出発時に厨房から拝借したふちが欠けたグラスに注ぎ、月にかざす。
その色合いに満足したのか、月明かりでの雰囲気を確かめる為か、明かりが少し見えにくい、だけれども小屋の魔物除けの効果が聞いている岩に腰を下ろす。
小さな小屋だから、部屋の中で飲めばいいと思うのだが、月明かりの下で飲むんじゃと、返事された。
きっと、酔わなければやってられないそう言う心理なのだろう。
どこへ行っても、魔物扱い。この醜い姿では致し方ないと分かっていても、どうしても昔は全ての者がトロデを王として興味関心を持っていたのだから、受け入れることができない。
難しい問題である。
途中からやってきたヤンガスとトロデが盛り上がっているのをエイトは遠めに見ていた。
加わりたくないわけではないが、トロデとヤンガスの間に築いている関係性が、エイト自身が築いているトロデとの関係性と違うため、加わることに躊躇いを覚える。
眺めているといつもそばに寄ってきてくれる存在。
「姫」
すっかり干し草を召し上がるようになったミーティアに少し切なく思う。
なるべく、人間が食べていたものを食された方がいいかもしれないと思うも、経費的な問題や無償で提供してくれる時も多く。
最初はためらっていたにもかかわらず、今では自ら進んで食される。
「我々は、この後どうなるのでしょうね」
仲間は増えたけれども、何の解決策が見当たらないまま、気持ちだけが焦る。
小さい嘶きと共にすり寄るミーティア。
「ヤンガスが言っていたパルミドと言う場所で進展があれば良いですね」
唯一のコミュニケーションで、慰めようとしてくださる姫に、お強い方だと笑みが漏れる。
そして、今だからこそ許される行為、ミーティアの顔をゆっくりと撫でる。
嬉しそうな嘶きが辺りに響く。